運営者である田邉は、すでに法人化しているものの、フリーランスエンジニアとしての働き方をして10年以上になります。
10年前はまだそこまで一般認知度の低かったフリーランスという言葉も、ここ数年で一気にみんなが知るものとなりました。
この10年以上の月日の中で、「フリーランスって稼げるの?」「年収1,000万越えてる?」という質問は何度も経験してきました。結論から言うと「稼げるようになった」と言えます。
一般的な正社員より稼げるかという点でいえば、法人化しているため役員報酬になったおかげで正直なところ「一般的な役職付きサラリーマン」程度の報酬です。
「売上」や「経常利益」という言葉で表すとまた別の意味が生まれますが、ひとまず田邉自身はそのくらいです。
このコンテンツでは、「フリーランスになって年収1,000万目指そうぜ!」のようなブログ記事や煽り文句に対する抗議文となります。
実は数年前にもnoteで同じようなことを書いたのですが、改めて当サイトで現在の日本の求人市場やフリーランスエンジニアの案件市場を加味して書き直します。
ここでいう「フリーランス」とは個人の自営業者を指します。開業届を税務署へ提出した、会社に所属せず個人で商売を営む方のことです。
会社員であれば、毎月給与所得が発生し、額面の金額から住民税が徴収され(会社が特別徴収している場合)社会保険や厚生年金の半額負担などを差っ引かれたものが手取り収入として口座に振り込まれます。
自営業者の場合はこの「給与所得」ではなく「事業所得」となり、ここから経費や差し引いた金額から利益を算出し、確定申告で自分の税額などが決まります。また、法人化していない場合、他に従業員を雇っていない場合は国民年金と国民健康保険へと切り替わるため、その保険料も決まります。
つまり、フリーランスは年収1,000万(=売上1,000万)あっても、経費を差し引いたら利益は100万円(つまり正社員の年収100万円と同等)という場合もありうるのです。
仮にエンジニアのようにほとんど経費がかからない職種の場合、最終的な利益が丸々1,000万残ったら、その金額に対して税額や保険料が決まります。そして、それは正社員時代より大きい金額になります。
つまりフリーランスの年収1,000万はうまいことやらない限り、正社員の年収数百万よりも手元に残るお金は少なくなるということです。
あなたは現在の自分の給与から何がどういった名目で、どのような計算のもと差し引かれているかをご存知でしょうか?
もちろん細かな計算等は会社の経理のみなさまがしてくれているのですが、ざっくりとでも「額面でこの金額だからこの保険料になるのか」程度は理解しておくべきです。
将来的にもしフリーランスを目指されている場合、このあたりの感覚を理解していないと売上にばかり目がいってしまい、結果的に生計に窮する事態もありえます。フリーランス=ビジネスを自分でする、ということなので「何にお金がかかるか」についてはとにかくシビアになりましょう。
給与明細における基本給、手当(残業手当含む)などは注目することも多いと想定されますが、控除、保険料、所得税、住民税あたりに着目してみてください。子ども・子育て拠出金などの別項目も存在します。
社会保険料と厚生年金保険料は会社と折半の形になっているので、これを一人で払う場合は給与明細に記載されている金額の2倍が必要なのです。(会社側もけっこう負担しているんです)
仮に売上が1,000万円、経費で100万円を使ったことを仮定してざっくり計算した結果は以下です。
※細かな計算方法が知りたい場合は、所得税の場合「所得税 計算 個人事業主」などで検索してみましょう。
会社員で年収1,000万円の難しさは理解しているので、まったく同じというわけではありませんが、いくら1,000万円をフリーランスで稼いでもかなりの部分を税金として納めることになります。
正直なところ、フリーランスエンジニアで売上1,000万円はそこまで遠い話ではありません。
月額換算すれば1000 / 12 = 83.3万円
となり、月に83.3万円以上の報酬があればOKということになります。
ScalaやGo言語のような高額報酬が多い言語を選んで活動するか、あるいは経験年数を重ねていけばこの報酬金額には5年前後あれば多くのフリーランスエンジニアが到達できるでしょう。
IT業界は常に人材不足と言われていますが、人材不足なのは高スキル保持者が不足しているだけです。
コピペできる程度、言われたことをサポートがありつつ時間をかけてできる程度、であれば人材は余っています。
逆説的に考えると、仕様策定から参加できるレベル、他のエンジニアをサポートしながらタスクをこなせるレベルであれば高い報酬であっても参加してほしいと言ってくださるプロジェクトは多いのです。
自分自身のスキルと経験さえあれば、売上1,000万はそう難しくない状況になります。
フリーランスエンジニアのエージェントが公開している言語別単価なるものがありますが、これはまったく当てになりません。
企業からすれば「言語やスキル要件はこれで、上限単価はこのくらいで、このレベルでできるエンジニアが欲しい」という依頼を出しているため、それに合致していれば報酬は交渉次第になってきます。
企業の「おおよそ希望する単価」はやや低めに設定されていることが多いため(経費削減を考慮すれば当たり前のこと)、実情と異なることも多々あるので言語別平均単価を気にしながらスキル習得する必要はありません。
自身が気に入った言語の習熟度を上げて、「この言語ならたいていのモノは作れます!」と言えるようになっていることが理想的です。
当サイトでは一貫して「フリーランスになろうよ!」とは勧めません。が、フリーランスを目指す人に対して有益なコンテンツを作成する方針でいます。
誰も彼もが目指すべき業態ではないものの、フィットする人にとってはこの上なく生き生きと働くことができます。
「年収で高みを目指す」よりも「働き方を人生に合わせてカスタマイズする」という気持ちで目指すことをおすすめします。
本コンテンツの本題として掲げたように、「フリーランスになって年収1,000万」の広告文については強く反意を示します。
結果として、年収1,000万円に到達できる可能性はあるものの、企業の正社員という庇護下から抜け出してその人の人生がトータルでプラスになるかどうかは資質次第です。
これは情報商材系の方々に見られますが、昨今の物価高や上がらない給与所得への不安を煽るようなことも差し控えることを提案します。
日本全体、世界全体的に経済が不調なのは単なる時代変化で、なかなかに抗いづらい状況です。収入を上げることで安心感を得たいというのは自分も含め多くの人々が望むことです。
しかしながら、目先の利益のみを追い求めることは生涯に渡る利益と反比例するものがある場合も確かです。
正社員やその他企業勤め、フリーランスやパラレルワークなどよく比較検討できる材料を指し示した上で、自分自身で納得して判断できるよう情報提供することこそ社会全体の利益になります。
収入面に関しては先述のような意見を持っていますが、フリーランスエンジニア自体は非常に楽しい業態です。
自分のスキルが市場価値に反映されること、学び続け前進し続けなければその価値が落ちることなど、ダイレクトに自分の行動が結果として表れやすいのがエキサイティングです。
プログラミング言語以外にも、外国語であったり様々な業界のドメイン知識であったり、広範囲に渡って学習をする機会を得られるため、知的好奇心に溢れている人にとっては天職とも言えます。
自分自身の経験として、たとえば第2次産業を支える部品や資材がどういった流れでどのように組み立てられていくか、などもフリーランスエンジニアとしての活動を通じて知ることになりました。
自由度の高さゆえに広げられる行動範囲は、きっと多くの物事に興味を持って楽しめる人にとって有益なものとなるでしょう。
自由度と書きましたが、私生活の自由時間という意味では圧倒的に会社員のほうが多く使えます。
もちろん残業を始めとした時間外労働のある職場もありますが、基本的に就業時間以外は自分の時間として使うことができます。
フリーランスエンジニアになると、ひたすらにタスクを消化し、自由になる時間も勉強をし続けなければ自分の価値を示すことができません。
このルーティンに慣れるほど、友人と遊んだり余暇を楽しむ「自由時間」にあたる時間は少なくなっていくことに気付きます。時間の使い方は慣れで最適化されていくので、仕事しかしていないというほどになることはなくなりましたが、フリーランスエンジニアになりたての頃合いは忙殺されていました。
もちろんその忙しさに比例して収入面は潤ったため、時間の切り売りの最大化ができることもフリーランスエンジニアの特徴と言えるでしょう。
仕事以外の時間を消費する、という時点で仕事に人生を奪われる気持ちになる人も多いことでしょう。
ですが、この自分自身の市場価値を高め続けるというプロフェッショナル性こそがフリーランスに求められる要素だと考えます。
外様からチームに入ってきた人材に求められるのはいつでも「チーム内の課題を解決してくれる」ことです。
フードデリバリーであれば「料理をしなくてもおいしくて温かい食事が食べられる」ことですし、ルームクリーニングであれば「自分がやらなくても部屋をピカピカにしてくれる」ことです。これと同じで、チームメンバーの時間を肩代わりしつつ高品質でシステムを組むことこそフリーランスエンジニアの仕事なのです。
今まで様々な現場で開発チームの一員として携わってきましたが、その中で企業勤めに戻っていく人はたくさん見ました。
理由はだいたい以下のようなパターンです。
このように、フリーランスを始めても戻ることもありうるため、「とりあえずやってみる」は迷惑にならない範囲であればやってみるべきでしょう。
そこで合わないと感じたら正社員に戻る選択肢を取り、挑戦した経験を人生に活かしましょう。
長々とフリーランスを目指す人を不安にさせる文章を書きましたが、長いこと現場に立ち続けた中で「夢を見すぎている人」「辛そうな人」を何度も見かけたので、注意喚起したくてまとめました。
やるなら本気でやるべきですし、「何をすればいいの?」という人はまず一人で学び続ける体制作りをするべきです。
日常的にコードを書いたり情報収集をしていたりする人は問題ありませんが、休日は休日として楽しんだり、空いた時間はスマホゲームに費やしたりしている人は1回見直してみましょう。
現代社会にふさわしくない根性論だと感じる方も多いでしょうが、日本のIT業界を支える一員であることに自覚を持ち、我々の生活へ豊かさを与えるために技術力を高めていくことが大人としての姿勢だと考えています。