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Elixir完全ガイド|特徴・メリット・Erlang/OTP採用事例と学習ロードマップ【2025年版】

リンドくん

リンドくん

たなべ先生、最近「Elixir」っていうプログラミング言語の名前をよく聞くんですけど、これってどんな特徴があるんですか?

たなべ

たなべ

Elixirは高い並行性とフォルトトレラント性で有名な関数型プログラミング言語なんだ。
特にリアルタイム処理や大規模なWebアプリケーションの開発で威力を発揮するよ。

現代のWebアプリケーション開発では、同時に大量のユーザーからのリクエストを処理することが求められています。
チャットアプリ、オンラインゲーム、IoTシステムなど、リアルタイム性が重要なアプリケーションの需要は年々増加しています。

そんな中で注目されているのがElixir(エリクサー)というプログラミング言語です。
Elixirは、30年以上にわたって通信システムで実績を積んできたErlang言語の恩恵を受けながら、現代的で読みやすい文法を提供している言語なのです。

この記事では、Elixirの基本概念から実際の開発事例、学習方法まで、初心者にもわかりやすく解説していきます。
「並行処理って何?」「関数型プログラミングって難しそう...」という方でも、Elixirの魅力を理解できる内容になっています。

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Elixirとは

リンドくん

リンドくん

そもそもElixirってどういう言語なんですか?他の言語と何が違うんでしょうか?

たなべ

たなべ

Elixirは関数型プログラミング言語で、特にActor Modelという仕組みを使って、軽量プロセスを大量に扱えるのが大きな特徴なんだ。
簡単に言うと、数百万の小さなタスクを同時に処理できるんだよ。

Elixirの基本的な特徴

2012年に登場したElixirはJosé Valim氏によって開発された関数型プログラミング言語です。
その最大の特徴は以下の点にあります。

  • 軽量プロセスによる並行処理 → 数百万のプロセスを同時に実行可能
  • フォルトトレラント設計 → 一部のプロセスがエラーになっても全体は停止しない
  • イミュータブルデータ → データは変更されず、新しいデータが作成される
  • パターンマッチング → データの構造に基づいた柔軟な処理が可能

Erlang/OTPとの関係

ElixirはErlang VM(BEAM)上で動作し、Erlang/OTPの豊富なライブラリを活用できます。
OTP(Open Telecom Platform)は、高可用性システムを構築するためのフレームワークです。

この組み合わせにより、Elixirアプリケーションは以下のような特性を持ちます。

  • 99.9999999%(ナインナイン)の可用性を実現
  • ホットコードスワップ → システムを停止せずにコードを更新
  • 分散処理 → 複数のサーバー間でのシームレスな処理

なぜElixirが注目されているのか

現代のWebアプリケーションでは、以下のような課題があります。

  1. 大量の同時接続への対応 → チャットアプリやライブストリーミング
  2. システムの高可用性 → 24時間365日の安定稼働
  3. リアルタイム性 → WebSocketやServer-Sent Eventsの活用

Elixirはこれらの課題を根本的に解決する言語として設計されており、Discord、WhatsApp、Pinterestなどの大手企業で実際に採用されています。

Elixirの特徴 - 軽量プロセスとActor Model

リンドくん

リンドくん

「軽量プロセス」って普通のプロセスと何が違うんですか?

たなべ

たなべ

OS上で動く通常のプロセスと違って、ElixirのプロセスはBEAM上で管理されるとても軽い実行単位なんだ。
メモリ使用量も少なく、数マイクロ秒で起動できるから、大量に作成しても問題ないんだよ。

Actor Modelとは

ElixirはActor Modelというパラダイムに基づいて設計されています。
Actor Modelでは、全ての処理が独立した「アクター」(Elixirではプロセス)によって実行されます。

Actor Modelの基本原則

  • メッセージパッシング → アクター間の通信はメッセージのみ
  • 状態の隔離 → 各アクターは独自の状態を持ち、共有されない
  • 障害の局所化 → 一つのアクターの障害が他に影響しない

軽量プロセスの実装例

以下は、Elixirで簡単なカウンタープロセスを作成する例です。

defmodule Counter do
  # プロセスを開始する関数
  def start(initial_value \\ 0) do
    spawn(fn -> loop(initial_value) end)
  end

  # メッセージを受信し続けるループ
  defp loop(current_value) do
    receive do
      {:increment, caller} ->
        new_value = current_value + 1
        send(caller, {:ok, new_value})
        loop(new_value)
      
      {:get_value, caller} ->
        send(caller, {:ok, current_value})
        loop(current_value)
      
      :stop ->
        :ok
    end
  end

  # カウンターの値を増加させる
  def increment(pid) do
    send(pid, {:increment, self()})
    receive do
      {:ok, value} -> value
    end
  end

  # 現在の値を取得する
  def get_value(pid) do
    send(pid, {:get_value, self()})
    receive do
      {:ok, value} -> value
    end
  end
end

# 使用例
counter_pid = Counter.start(0)
Counter.increment(counter_pid)  # => 1
Counter.increment(counter_pid)  # => 2
Counter.get_value(counter_pid)  # => 2

パターンマッチングの威力

Elixirのパターンマッチングは、データの構造に基づいて処理を分岐させる強力な機能です。

defmodule UserProcessor do
  def process_user({:ok, %{name: name, age: age}}) when age >= 18 do
    "成人ユーザー: #{name}さん(#{age}歳)"
  end

  def process_user({:ok, %{name: name, age: age}}) when age < 18 do
    "未成年ユーザー: #{name}さん(#{age}歳)"
  end

  def process_user({:error, reason}) do
    "エラー: #{reason}"
  end
end

# 使用例
UserProcessor.process_user({:ok, %{name: "田中", age: 25}})
# => "成人ユーザー: 田中さん(25歳)"

UserProcessor.process_user({:error, "ユーザーが見つかりません"})
# => "エラー: ユーザーが見つかりません"

このように、Elixirの軽量プロセスとパターンマッチングを組み合わせることで、複雑な並行処理を直感的に記述できます。

Elixirのメリット - 高い並行性とフォルトトレラント性

リンドくん

リンドくん

実際にElixirを使うとどんなメリットがあるんでしょうか?

たなべ

たなべ

最大のメリットは「Let it crash」という哲学なんだ。
エラーが起きても系全体は停止せず、問題のある部分だけを再起動する仕組みが標準で用意されているんだよ。

圧倒的な並行処理能力

Elixirの最大の強みは、数百万の軽量プロセスを同時に実行できる点です。
従来の言語では難しかった大規模な並行処理が、Elixirでは自然に実現できます。

具体的な数値例

  • WhatsApp → 20億ユーザーを50台のサーバーで処理
  • Discord → 数百万の同時接続をElixirで処理
  • 一般的なElixirアプリケーション → 1台のサーバーで100万以上の接続を処理可能

フォルトトレラント設計の実装

Elixirでは「Supervisor」という仕組みを使って、プロセスの監視と再起動を自動化できます。

defmodule ChatRoom.Supervisor do
  use Supervisor

  def start_link(opts) do
    Supervisor.start_link(__MODULE__, :ok, opts)
  end

  def init(:ok) do
    children = [
      # チャットルームのワーカープロセス
      {ChatRoom.Worker, []},
      # メッセージ配信プロセス
      {MessageDispatcher, []},
      # ユーザー管理プロセス
      {UserManager, []}
    ]

    # :one_for_one → 一つのプロセスが停止しても他は継続
    Supervisor.init(children, strategy: :one_for_one)
  end
end

リアルタイム処理の優位性

ElixirはWebSocketやServer-Sent Eventsを使ったリアルタイム通信が得意です。
Phoenix LiveViewというフレームワークを使えば、JavaScriptをほとんど書かずにリアルタイムなWebアプリケーションを構築できます。

defmodule ChatWeb.RoomLive do
  use ChatWeb, :live_view

  def mount(_params, _session, socket) do
    # チャットルームに参加
    Phoenix.PubSub.subscribe(Chat.PubSub, "room:general")
    
    {:ok, assign(socket, messages: [], current_user: "ユーザー")}
  end

  def handle_event("send_message", %{"message" => message}, socket) do
    # メッセージを全参加者に配信
    Phoenix.PubSub.broadcast(Chat.PubSub, "room:general", {:new_message, message})
    
    {:noreply, socket}
  end

  def handle_info({:new_message, message}, socket) do
    # 新しいメッセージを受信したら画面を更新
    {:noreply, update(socket, :messages, &[message | &1])}
  end
end

パフォーマンスの特徴

Elixirのパフォーマンス特性は他の言語と大きく異なります。

  • スループット重視 → 大量の同時処理に最適化
  • 低レイテンシ → ガベージコレクションによる停止時間が短い
  • メモリ効率 → プロセス間でのメモリ共有なし
  • 予測可能な性能 → 負荷が増えても性能劣化が少ない

これらの特徴により、Elixirはチャットアプリ、ゲームサーバー、IoTプラットフォームなど、リアルタイム性と高可用性が求められるアプリケーションで力を発揮します。

実際の採用事例

リンドくん

リンドくん

実際にElixirを使っている有名なサービスってあるんですか?

たなべ

たなべ

たくさんあるよ!特にDiscordWhatsAppは有名で、数億人のユーザーを支えているんだ。
それぞれの事例を詳しく見てみよう。

Discord - ゲーマー向けチャットプラットフォーム

Discordの技術的課題

  • 数百万人の同時接続ユーザー
  • リアルタイムメッセージング
  • 音声・動画通話の処理

成果

  • 1台のサーバーで数十万の同時接続を処理
  • システム全体の99.99%以上の可用性を実現
  • 開発チームの生産性向上

WhatsApp - メッセージングアプリの巨人

技術的な実績

  • 20億人以上のアクティブユーザー
  • わずか50台のサーバーで全世界をカバー
  • 1秒間に数十万メッセージを処理

Erlang/OTPの活用

WhatsAppはErlang(Elixirの基盤)を使用して、以下の特徴を実現しました。

  • 超軽量プロセス → 各ユーザー接続を独立したプロセスで管理
  • 分散処理 → 世界中のデータセンター間での負荷分散
  • ホットコードスワップ → サービス停止なしでのアップデート

Pinterest - 画像共有プラットフォーム

移行前の課題

  • Pythonベースのシステムでの性能限界
  • 大量の画像処理とリアルタイム通知
  • スケーラビリティの問題

導入効果

  • 応答速度の大幅向上 → 通知配信が倍高速化
  • サーバー台数の削減 → 必要リソースの縮小
  • 開発効率の向上 → バグ修正時間の短縮

Elixir学習ロードマップ - 初心者から実践レベルまで

リンドくん

リンドくん

Elixirを学んでみたいんですけど、どこから始めればいいでしょうか?

たなべ

たなべ

段階的に学ぶのがコツだね!まずは関数型プログラミングの基本から始めて、徐々に並行処理やOTPに進むのがおすすめだよ。
具体的なロードマップを示すね。

Phase1 基礎固め(1-2ヶ月)

学習目標

  • Elixirの基本文法を理解する
  • 関数型プログラミングの考え方を身につける
  • パターンマッチングを使いこなす

具体的な学習内容

# 1. 基本的なデータ型
age = 25
name = "田中"
is_student = true
scores = [80, 90, 75]
user = %{name: "田中", age: 25}

# 2. パターンマッチング
{:ok, result} = {:ok, "成功"}
[head | tail] = [1, 2, 3, 4, 5]

# 3. 関数の定義
defmodule Calculator do
  def add(a, b), do: a + b
  
  def divide(a, 0), do: {:error, "ゼロ除算エラー"}
  def divide(a, b), do: {:ok, a / b}
end

Phase2 並行処理とプロセス(2-3ヶ月)

学習目標

  • プロセスの概念を理解する
  • メッセージパッシングを実装できる
  • GenServerの基本を習得する

実践課題例

# シンプルなチャットルームの実装
defmodule ChatRoom do
  use GenServer

  # クライアントAPI
  def start_link(room_name) do
    GenServer.start_link(__MODULE__, [], name: via_tuple(room_name))
  end

  def join(room_name, user_name) do
    GenServer.call(via_tuple(room_name), {:join, user_name})
  end

  def send_message(room_name, user_name, message) do
    GenServer.cast(via_tuple(room_name), {:message, user_name, message})
  end

  # サーバーコールバック
  def init(_) do
    {:ok, %{users: []}}
  end

  def handle_call({:join, user_name}, _from, state) do
    new_state = %{state | users: [user_name | state.users]}
    {:reply, :ok, new_state}
  end

  def handle_cast({:message, user_name, message}, state) do
    # 全ユーザーにメッセージを配信
    Enum.each(state.users, fn user ->
      IO.puts("#{user}に配信: [#{user_name}] #{message}")
    end)
    {:noreply, state}
  end

  defp via_tuple(room_name) do
    {:via, Registry, {ChatRegistry, room_name}}
  end
end

Phase3 Phoenix(2-3ヶ月)

学習目標

  • WebアプリケーションをElixirで構築する
  • Phoenix LiveViewでリアルタイム機能を実装する
  • データベース操作(Ecto)を習得する

プロジェクト例: リアルタイムTODOアプリ

# LiveViewでのTODO管理
defmodule TodoWeb.TodoLive do
  use TodoWeb, :live_view

  def mount(_params, _session, socket) do
    {:ok, assign(socket, todos: [], new_todo: "")}
  end

  def handle_event("add_todo", %{"todo" => todo_text}, socket) do
    new_todo = %{id: :rand.uniform(1000), text: todo_text, done: false}
    updated_todos = [new_todo | socket.assigns.todos]
    
    {:noreply, assign(socket, todos: updated_todos, new_todo: "")}
  end

  def handle_event("toggle_todo", %{"id" => id}, socket) do
    id = String.to_integer(id)
    updated_todos = 
      Enum.map(socket.assigns.todos, fn todo ->
        if todo.id == id do
          %{todo | done: !todo.done}
        else
          todo
        end
      end)
    
    {:noreply, assign(socket, todos: updated_todos)}
  end
end

Phase4 高度なトピック(3-6ヶ月)

学習目標

  • OTPビヘイビア(Supervisor、GenStage)の活用
  • 分散システムの構築
  • パフォーマンスチューニング

実践プロジェクト案

  1. リアルタイムチャットアプリ → WebSocketとGenServerを組み合わせ
  2. IoTデータ処理システム → GenStageでのデータパイプライン
  3. 分散タスク処理システム → 複数ノード間での負荷分散

学習を継続するコツ

最近、自分のXでElixirについて呟いたところ、多くの情報をいただけたのでフリーキーズでもElixirの取扱を始めました。
自分もまだまだ勉強中ですが、日本はなんとElixirコミュニティが世界一とのこと!

学べば学ぶほど、関数型プログラミングの魅力や、並行処理の実装しやすさに魅了されています。
初心者の人にはハードルが高そうに見えますが、意外と書いてみると多くの処理ができるため、そういったElixir固有の機能などを楽しむことが学習継続のコツです。

特に福岡を中心とした九州地方では多くのイベント(オンライン含む)が開催されているので、興味がある方はぜひconnpassなどから参加してみましょう!

まとめ

リンドくん

リンドくん

Elixirについてたくさん学べました!これからのWebアプリケーション開発にはとても重要な言語なんですね。

たなべ

たなべ

そうなんだ!特にリアルタイム性や高可用性が求められる分野では、Elixirの価値はさらに高まっていくと思うよ。
AI時代のエンジニアとして、並行処理や分散システムの理解は必須スキルになるからね。

Elixirは単なるプログラミング言語以上の価値を持っています。
それは現代のアプリケーション開発が直面する課題を根本的に解決するアプローチを提供してくれるからです。

Elixirの主要な価値

  • スケーラビリティ → 数百万の同時接続を効率的に処理
  • 信頼性 → 99.9999999%の可用性を実現する設計思想
  • 開発効率 → パターンマッチングとパイプライン演算子による直感的なコード
  • 将来性 → IoT、リアルタイム通信、分散システムでの需要増加

これからElixirを学ぶメリット

関数型プログラミングと並行処理の深い理解は、AI時代のエンジニアにとって重要なスキルです。
機械学習のパイプライン処理、リアルタイム予測システム、大規模なデータ処理など、これらの分野でElixirの知識は大きなアドバンテージとなります。

プログラミングの世界は常に進化しています。
Elixirを学ぶことで、従来のWebアプリケーション開発では実現が困難だった高性能で信頼性の高いシステムを構築できるようになります。

楽しくElixirを学んでいきましょう!

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