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リンドくん
先生、たまに「不正ログイン被害」のニュースを見るんですけど、どうしてこんなことが起きるんですか?
たなべ
良い質問だね。実はね、多くの不正ログインは認証の仕組みが不十分だったり、ユーザー側の設定が甘かったりすることで発生するんだ。今日は、認証の基礎からしっかり学んでいこう。
Webサービスを利用する上で、ログインは日常的に行う操作ですよね。
しかし、その裏側でどのような仕組みが動いているのか、なぜパスワードだけでは不十分なのか、きちんと理解している方は意外と少ないのではないでしょうか?
近年、サイバー攻撃の手口は巧妙化しており、単純なパスワード認証だけでは安全性を保てなくなっています。
実際、多要素認証(MFA)を導入していないサービスでは、アカウント乗っ取りのリスクが高くなるというデータもあります。
本記事では、Webアプリケーションにおける認証の基礎知識から、ログインフローの具体的な流れ、そして多要素認証がなぜ重要なのかまで、初心者の方でも理解できるよう丁寧に解説していきます。
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リンドくん
そもそも「認証」って何ですか?ログインすることと同じ意味ですか?
たなべ
認証は「あなたが本当にあなたであることを証明するプロセス」なんだ。ログインは、その認証を行うための一つの手段だと考えるといいよ。
認証(Authentication)とは、システムやサービスにアクセスしようとしている人物が、本当に主張している本人であることを確認するプロセスです。
例えば、銀行のATMでお金を引き出す際、キャッシュカードと暗証番号が必要ですよね。
これはまさに認証の仕組みです。キャッシュカード(あなたが持っているもの)と暗証番号(あなたが知っているもの)の両方を確認することで、本人であることを証明しているのです。
Webサービスにおける認証の主な目的は以下の通りです。
ここで重要なポイントとして、認証と認可の違いを理解しておきましょう。
例えば、社員証でオフィスに入る場合を考えてみましょう。
Web開発においても、この二つは明確に区別されます。まず認証でユーザーを特定し、その後、認可でそのユーザーがどの機能やデータにアクセスできるかを制御するのです。
セキュリティの世界では、認証には三つの要素があると言われています。
知識要素(Something you know) - あなたが知っているもの
所有要素(Something you have) - あなたが持っているもの
生体要素(Something you are) - あなた自身の特徴
一般的なパスワード認証は「知識要素」のみを使用していますが、これだけでは不十分です。
なぜなら、パスワードは漏洩したり、推測されたりする可能性があるからです。
より強固なセキュリティを実現するには、これらの要素を組み合わせることが重要です。これが次のセクションで詳しく解説する「多要素認証」の基本的な考え方となります。
リンドくん
普段何気なくログインしてますけど、裏側では具体的に何が起こっているんですか?
たなべ
実は結構複雑な処理が行われているんだよ。ステップごとに見ていこうか。特にパスワードの扱い方が重要なポイントなんだ。
一般的なWebアプリケーションにおけるログインフローは、以下のような手順で行われます。
ユーザーがログイン画面でメールアドレス(またはユーザー名)とパスワードを入力します。
入力された情報が、通常はHTTPS(暗号化通信)を通じてサーバーに送信されます。HTTPSを使用することで、通信途中でデータが盗まれるのを防ぎます。
サーバーは受け取った情報をデータベースと照合します。ここで重要なのは、パスワードは平文(そのままの形)では保存されていないという点です。
安全なシステムでは、パスワードは「ハッシュ化」という特殊な変換処理を経てデータベースに保存されます。
ハッシュ化には重要な特徴があります。
サーバーは、ユーザーが入力したパスワードをハッシュ化し、データベースに保存されているハッシュ値と比較します。一致すれば認証成功です。
認証が成功すると、サーバーはセッションIDを生成します。これは「ログイン済み」という状態を管理するための識別番号のようなものです。
セッションIDは通常、クッキー(Cookie)という仕組みを使ってブラウザに保存されます。これにより、ユーザーがページを移動しても「ログイン済み」の状態が維持されます。
ログイン後、ユーザーがサイト内を移動する際、毎回ログインし直す必要はありませんよね。これは、ブラウザが自動的にセッションIDをサーバーに送信し、サーバーがそれを確認することで実現されています。
この仕組みのおかげで、一度ログインすれば、一定時間(通常は30分~数時間)はログイン状態が保たれるのです。
基本的なログインフローでも、以下のようなセキュリティ対策が不可欠です。
このように、単純に見えるログイン処理の裏側では、多くのセキュリティ対策が施されているのです。
リンドくん
パスワードって、十分に複雑にしていれば安全じゃないんですか?
たなべ
それが実はそうでもないんだ。どんなに複雑なパスワードでも、人間が扱う以上、限界があるんだよ。具体的な問題点を見ていこう。
パスワード認証は最も一般的な認証方法ですが、実は多くの弱点を抱えています。
1. 弱いパスワードの使用
多くのユーザーが、覚えやすさを優先して簡単なパスワードを設定してしまいます。実際、よく使われるパスワードランキングには以下のようなものが常連です。
123456passwordqwerty111111これらは攻撃者にとって最初に試すパスワードであり、非常に危険です。
2. パスワードの使い回し
多くの人が複数のサービスで同じパスワードを使用しています。これは非常にリスクの高い行為です。なぜなら、一つのサービスでパスワードが漏洩すると、他のすべてのサービスも危険にさらされるからです。
例えば、あるECサイトでデータ漏洩が発生し、あなたのメールアドレスとパスワードが流出したとします。
攻撃者はその情報を使って、銀行のサイトやSNSなど、他のサービスへのログインを試みます。もし同じパスワードを使っていたら、すべてのアカウントが乗っ取られる可能性があるのです。
3. フィッシング攻撃
フィッシング攻撃とは、正規のサイトを装った偽のログインページにユーザーを誘導し、パスワードを入力させて盗む手口です。
どんなに強固なパスワードを設定していても、ユーザー自身が偽サイトに入力してしまえば意味がありません。
4. キーロガーやマルウェア
コンピュータがマルウェアに感染していると、キーボードで入力した内容がすべて記録されてしまう可能性があります。これを「キーロガー」と呼びます。
5. データベース漏洩のリスク
サービス提供側のセキュリティが不十分だと、データベースごと盗まれる可能性があります。適切にハッシュ化されていない場合、パスワードがそのまま漏洩してしまいます。
ブルートフォース攻撃(総当たり攻撃)とは、可能なパスワードの組み合わせをすべて試していく攻撃手法です。
短いパスワードや単純なパスワードは、このような攻撃に対して非常に脆弱です。
現代のコンピュータの処理能力を使えば、8文字程度のパスワードなら、数時間から数日で破られる可能性があります。
理想的には、すべてのサービスで異なる、長くて複雑なパスワードを使用すべきです。しかし、現実には多くの課題があります。
このような課題があるため、多くのユーザーが安全性よりも利便性を優先してしまうのです。
これらの問題を解決する一つの方法がパスワードマネージャーの使用です。パスワードマネージャーを使えば、以下のメリットがあります。
代表的なパスワードマネージャーには、1Password、Keeper, LastPass、そしてBitwardenなどがあります。
しかし、パスワードマネージャーを使っても、パスワード認証そのものの限界は解決できません。そこで登場するのが、次のセクションで詳しく解説する「多要素認証」なのです。
リンドくん
最近、ログインするときに「スマホに送られたコードを入力してください」って言われることが増えた気がします。あれって何なんですか?
たなべ
それがまさに多要素認証(MFA)なんだ!パスワードだけじゃなく、他の方法も組み合わせることで、セキュリティを大幅に強化しているんだよ。
多要素認証(Multi-Factor Authentication、MFA)とは、先ほど説明した認証の三要素のうち、二つ以上を組み合わせて本人確認を行う認証方式です。
一般的に「二段階認証」や「2FA(Two-Factor Authentication)」という言葉も使われますが、これは多要素認証の一種で、二つの要素を使用する場合を指します。
多要素認証を有効にするだけで、アカウント侵害のリスクを大幅に削減できると示した研究もあります。
なぜこれほど効果的なのでしょうか?
それは、攻撃者が複数の要素をすべて突破する必要があるからです。たとえパスワードが漏洩しても、あなたのスマートフォンにアクセスできなければ、ログインはできません。
例えば、こんなケースを考えてみましょう。
このように、複数の防御層を設けることで、セキュリティが飛躍的に向上するのです。
多要素認証には、いくつかの実装方式があります。
携帯電話番号に認証コードが送られてくる方式です。
メリット
デメリット
Google AuthenticatorやMicrosoft Authenticatorなどのアプリを使用する方式です。
メリット
デメリット
YubiKeyなどのUSBデバイスを使用する方式です。
メリット
デメリット
指紋認証や顔認証を第二要素として使用する方式です。
メリット
デメリット
セキュリティレベルと利便性のバランスを考えると、以下のような優先順位がおすすめです。
重要なのは、どんな方式でも、多要素認証を有効にしないよりは遥かに安全だということです。完璧な方法を待つのではなく、今すぐ利用可能な方法で多要素認証を有効化することが大切です。
リンドくん
多要素認証を導入するときに、気をつけるべきことってありますか?
たなべ
たくさんあるよ!特にユーザー体験を損なわないことと適切なバックアップ手段を用意することが重要なんだ。
多要素認証は確かにセキュリティを向上させますが、使いにくければユーザーに敬遠されてしまいます。以下のポイントに注意しましょう。
いきなりすべてのユーザーに強制するのではなく、段階的に導入しましょう。
毎回認証を求めるのではなく、信頼できるデバイスは一定期間記憶する機能を提供しましょう。
すべてのユーザーが同じ方法を使えるわけではありません。複数の選択肢を提供しましょう。
スマートフォンを紛失したり、認証アプリを削除してしまったユーザーのために、適切なリカバリー手段を用意しましょう。
ユーザーが自分のアカウントの状況を把握できるよう、重要なイベントは通知しましょう。
リンドくん
認証について、いろいろ学べました!でも、結局どこから始めればいいですか?
たなべ
まずは自分のアカウントで多要素認証を有効にすることから始めよう。
そして、開発者なら、自分が作るサービスに多要素認証を実装することを検討してほしいな。
本記事では、認証の基礎知識から、ログインフローの仕組み、そして多要素認証の重要性と実装方法まで、幅広く解説してきました。
重要なポイントをおさらいしましょう。
これからWebアプリケーションを開発する方、または既存のシステムのセキュリティ強化を検討している方は、以下の点を意識してください。
認証は、デジタル社会における「玄関の鍵」のようなものです。
どんなに立派な家を建てても、鍵がしっかりしていなければ意味がありません。
エンジニアとして、そして一人のインターネットユーザーとして、認証の重要性を理解し、適切なセキュリティ対策を実践していきましょう。
セキュリティは、私たち全員の責任です。一緒に、より安全なデジタル世界を作っていきましょう!