リンドくん
たなべ先生、最近LLM(大規模言語モデル)がすごく話題になってますけど、その性能ってどうやって測るんですか?
たなべ
LLMの性能を測る方法っていくつかあって、それぞれ見ている観点が違うんだよ。今日はその代表的な評価指標について、ざっくりと全体像を掴んでもらおうと思うんだ。
リンドくん
評価指標...なんだか難しそうです。
たなべ
安心して!例えば、学校のテストでも国語のテストと数学のテストで測る能力が違うように、LLMにもいろんな角度から性能を測る必要があるってことなんだ。一緒に見ていこう!
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AIモデル、特にLLM(Large Language Model: 大規模言語モデル)の開発が急速に進む中で、「このモデルは本当に優れているのか?」という疑問にどう答えるかは非常に重要な課題です。
人間がテキストを読んで「これは良い文章だ」と判断するのは簡単ですが、数千、数万のテキストを評価するとなると話は別です。
また、複数のモデルを客観的に比較したり、改善の方向性を定めたりするには、定量的な評価指標が不可欠なのです。
LLMの評価指標が必要な理由は主に以下の3つです。
例えば、翻訳タスクが得意なモデルと、コード生成が得意なモデルでは、評価の軸が異なります。だからこそ、様々な評価指標を理解し、適切に使い分けることが重要なのです。
今回紹介するBLEU、ROUGE、Human Eval、Safety評価は、それぞれ異なる観点からLLMの性能を測定します。これらを理解することで、AI開発の現場で「このモデルは何が得意で、何が苦手なのか」を正確に把握できるようになります。
リンドくん
BLEUってなんだか変わった名前ですね。
たなべ
BLEUは「Bilingual Evaluation Understudy」の略で、機械翻訳の評価のために開発された指標なんだ。簡単に言うと、「正解の翻訳とどれくらい似ているか」を数値化するんだよ。
BLEUスコアは、生成されたテキストと参照テキスト(正解例)との類似度を測定します。0から1(または0%から100%)の範囲で表され、数値が高いほど参照テキストに近いことを示します。
具体的には、以下のような要素を評価しています。
例えば、こんなケースを考えてみましょう。
参照テキスト(正解例): 「今日は良い天気です」
生成テキスト1: 「今日は良い天気です」→ BLEUスコア: 高い
生成テキスト2: 「本日は晴天なり」→ BLEUスコア: 低い
生成テキスト2は意味的には正しいですが、使われている単語が異なるため、BLEUスコアは低くなります。
メリット
デメリット
つまり、BLEUは「形式的な一致度」を測る指標であり、文章の意味や自然さまでは評価できないということです。機械翻訳の初期評価には便利ですが、それだけでモデルの良し悪しを判断するのは危険だと言えます。
リンドくん
ROUGEっていうのも聞いたことあります!BLEUと何が違うんですか?
たなべ
いいところに気づいたね!ROUGEは「Recall-Oriented Understudy for Gisting Evaluation」の略で、主にテキスト要約の評価に使われるんだ。
BLEUとの大きな違いは、再現率(Recall)を重視しているところなんだよ。
ROUGEは、参照要約に含まれる重要な情報が、生成された要約にどれだけ含まれているかを測定します。ROUGEにはいくつかの種類があります。
特にROUGE-1(単語単位)とROUGE-2(2単語の組み合わせ)がよく使われます。
では、BLEUとROUGEの違いを具体的に見てみましょう。
参照要約: 「新しいiPhoneが発売され、多くの人が購入しました」
生成要約A: 「新しいiPhoneが発売されました」
生成要約B: 「新型スマートフォンが販売開始され、大勢が買いました」
BLEUは精度(Precision)を重視するため、生成要約Aの方が高いスコアになります。
一方、ROUGEは再現率(Recall)を重視するため、より多くの情報を含む生成要約Bの方が評価される可能性があります。
ROUGEは以下のようなタスクで特に有効です。
ただし、ROUGEもBLEU同様に表面的な単語の一致を見ているため、意味的な正しさや文章の流暢さは保証されません。これが、次に紹介するHuman Evalのような指標が必要とされる理由でもあります。
リンドくん
Human Evalって、人間が評価するってことですか?
たなべ
少し違うんだ!Human Evalは、LLMが生成したコードが実際に動くかをテストするための指標なんだよ。
特に、プログラミングコードを生成するLLMの評価に使われているんだ。
Human Evalは、OpenAIが開発したコード生成タスク専用の評価指標です。BLEUやROUGEと大きく異なり、生成されたコードが実際に正しく動作するかを評価します。
評価の流れは以下の通りです。
例えば、以下のような問題が与えられたとします。
LLMが正しく関数を補完し、すべてのテストケースをパスすれば、その問題は「成功」とカウントされます。
Human Evalが重要視される理由は以下の通りです。
特に、GitHub CopilotやCodexといったコード生成AIの性能比較に広く使われており、AI開発者にとって重要な指標となっています。
ただし、Human Evalにも限界があります。テストケースでカバーされていないエッジケースや、コードの可読性や効率性は評価できません。
そのため、実際のコード品質を総合的に判断するには、他の評価方法と組み合わせる必要があります。
リンドくん
性能が良ければそれでいいんじゃないですか?
たなべ
それが問題なんだ。どれだけ高性能でも、有害なコンテンツを生成したり、偏見を持った回答をするAIは使えないよね。だから、Safety評価がとても重要になってくるんだ。
Safety評価は、LLMが安全で倫理的な回答を生成できるかを測定する指標です。具体的には、以下のような観点で評価されます。
これらは、BLEU、ROUGE、Human Evalのようなパフォーマンス指標とは全く異なる軸での評価です。
Safety評価には、いくつかの代表的なアプローチがあります。
Red Teaming(レッドチーム評価)人間の評価者が意図的に有害な回答を引き出そうと試みるテスト手法です。攻撃者の視点でモデルの弱点を探ります。
Benchmark Datasets(ベンチマークデータセット)自動評価ツール
AIが社会に広く普及する中で、Safety評価の重要性はますます高まっています。
例えば、以下のような実際の問題が報告されています。
これらの問題を防ぐため、企業はSafety評価を重視し、モデルのリリース前に厳しいテストを実施しています。
性能だけでなく、倫理性や安全性を担保することが、AI開発における責任ある姿勢として求められているのです。
リンドくん
いろんな評価指標があるんですね!どれが一番大事なんですか?
たなべ
「どれが一番」というのはないんだ。それぞれが違う側面を見ているから、用途に応じて使い分けることが大事なんだよ。
リンドくん
なるほど...じゃあ、結局どうやって選べばいいんですか?
たなべ
目的によって選ぶのがポイントなんだ。最後に整理してみよう!
今回紹介した4つの評価指標を改めて整理すると、以下のようになります。
| 評価指標 | 主な用途 | 測定内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| BLEU | 機械翻訳 | 参照テキストとの単語一致度 | 計算が簡単、再現性が高い | 意味や自然さは評価できない |
| ROUGE | テキスト要約 | 重要情報の再現率 | 情報の網羅性を評価できる | 表面的な一致しか見ない |
| Human Eval | コード生成 | 生成コードの実行可能性 | 実用性を直接評価できる | テストケース外は評価できない |
| Safety評価 | 全般 | 安全性と倫理性 | 社会的リスクを検出できる | 基準が曖昧な場合がある |
実際のAI開発では、複数の評価指標を組み合わせて総合的に判断します。
例えば、チャットボット開発の場合は以下のような評価を行います。
また、翻訳AIの開発では以下のような組み合わせになります。
AIの世界は急速に進化していますが、評価の基本的な考え方は変わりません。
今回紹介した指標を理解しておくことで、最新のAI技術を学ぶ際の土台となるはずです。
実際に手を動かしてみることが、理解を深める最良の方法です。
まずは小さなプロジェクトから始めて、今日学んだ評価指標を実際に使ってみてください。きっと新しい発見があるはずです!